2016.12.22

農林業の課題にICT技術で向き合った2日間。「上山集楽農業ハッカソン」開催レポート

2016年10月7日、朝10時半。上山集楽のオフィスには、いつもと違った空気が流れていた。スーツ姿の中年男性、髪の長い若者、ラフな服装の女性。見た目からは何の集まりか想像もつかないが、この面々はこの日から2日間かけて行われる「農業ハッカソン」の参加者たちだ。
ハッカソンとは、エンジニアやデザイナー、プランナーなどソフトフェア開発に携わるプロがチームを組み、与えられた課題に対して一定期間集中的にプログラム開発やサービスを考案し、その成果を競うイベント。中山間地域の農業における課題をIotやICT技術で解決できないかという試みで、今年4月から上山で進められている「トヨタみんなのモビリティプロジェクト」の一環で行われた。

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集落の井上寿美さんは、開催の主旨をこう語る。
「〝IT×農業〟というと大型農業向けの開発が進んでいますが、ここで行われているのは小規模な農業。お年寄りの中には一つでも高齢のために作業ができなくなると全部止めてしまう人も多いんです。重いものを運んだり狭い場所での危ない作業だけでもサポートできれば、少しでも長く農業に従事していられる。若い新規就農者にとっても、農業に参入しやすくなりますよね」。

井上寿美さんは上山へ通いながら棚田再生に携わり、今年上山へ移住した一人。

井上寿美さんは上山へ通いながら棚田再生に携わり、今年上山へ移住した一人。

農業における切実な課題

この日上山に集まったのはセンサー、乗り物、IT、通信などの専門家約40名。具体的には電気三輪自動車開発の日本エレクトライクのハードウェアエンジニアや富士通のIoT事業本部社員、マツダのプランナー、トヨタの小型EV車の開発担当といった大手から専門性の高い企業に加えて、長年車のリストアを行ってきた個人事業主なども参戦した。
設定されたテーマは「草刈り」「水路・水門」「獣害」の三つ。上山で特に大きな課題である三つについて主催者から説明が行われた。

草刈りについては上山集楽の沖田さん、水路水門については松原さん、獣害については梅谷さんより説明があった。

草刈りについては上山集楽の沖田さん、水路水門については松原さん、獣害については梅谷さんより説明があった。

まず「草刈り」は棚田の再生や農作業の現場では最大の課題。上山は山の中腹に位置するため、狭くて傾斜のきつい坂道が多く、田畑まで大型機械が入らない。人が草刈機を使うしかなく、刈った草を運ぶのも一苦労だ。

次に「水路の管理」。棚田には水の確保が必要不可欠で、上山では貯水池である大芦池から各田んぼへ水路が張り巡らされている。毎日朝夕の水門の開け閉めに加え、大雨が降れば約30カ所を確認しなければならない。水が溢れれば田んぼの土手が崩れてしまうためだ。

最後に「獣害」。上山に限らずイノシシやシカなどによる被害は深刻で、今全国の農業被害額は82億円とも言われる。木材を使わなくなり森が荒れ、耕作放棄地が増加するなど獣の住処と人の暮らす域が近くなったことが理由に挙げられた。上山では電気冊などで対応しているが経費もかさむ。一度罠を仕掛けると毎日の見回りが大きな負担になるという。

獣害対策チームのフィールドワーク。獣道の跡を確認する。

獣害対策チームのフィールドワーク。獣道の跡を確認する。

フィールドワーク、そして発表へ

こうした課題が明確になったところで参加者は、8つのチームに分かれテーマを選択。チームごとにフィールドへ向かった。草刈りチームは棚田再生の現場、水路水門のチームは貯水池である大芦池の水門へ。「獣害」をテーマにしたチームに同行すると訪れた先の田んぼには電柵が張り巡らされていた。
「このワイヤーメッシュの下からシカが入ってきます。特に稲を刈った直後など狙われやすいんです」と説明するのは上山に暮らし、自らも罠を仕掛ける梅谷真慈さん。参加者からはイノシシとシカの割合や獣の水飲み場などについてなど質問が飛び交った。

現場を視察した各チームはさっそく検討を開始。話し合いは夕食後遅くまで続き、翌日も朝早くからパソコンに向かう姿が見られた。

現地メンバーと真剣に話し合う参加者たち。

現地メンバーと真剣に話し合う参加者たち。

地元の棚田米でつくられたおにぎりがふるまわれた。

地元の棚田米でつくられたおにぎりがふるまわれた。

農業に使われる小型モビリティや、改造車なども、参考としてこの日上山に集められた。

農業に使われる小型モビリティや、改造車なども、参考としてこの日上山に集められた。

そして2日目の午後。いよいよ各チームによるプレゼンテーションが始まる。審査員には国立研究開発法人産業技術総合研究所の谷川民生博士をはじめ、トヨタモビリティ基金事務局長代理の青山伸氏、上山西地区区長の藤原茂氏、英田上山棚田団の猪野全代さんがあたる。

トップバッターは、獣害対策として「アニマルターミネーター」を開発したチーム。現行の罠の問題点を解決する新しいタイプの罠を提案した。木の上に設置したモーションセンサーと超音波センサーが動物を察知すると投網が発射される仕組み。カバー面積が今までよりも広く、スキル・経験も免許も要らず人への危険が少ない。

獣害対策で考案された罠「アニマルターミネーター」。モーターやセンサーなど部品も豊富に用意されていた。

獣害対策で考案された罠「アニマルターミネーター」。モーターやセンサーなど部品も豊富に用意されていた。

水路の課題を検討したチームからは水路の流量をトラッキングしてハザードマップのように可視化する仕組みの提案。小さなプロペラが付いたモジュールを水路に設置し、その回転具合によって水量を測定する。水量が弱まれば枯れ葉の詰まりなどが想定でき見回りが必要と判断できる。ただしこの案には地元の区長藤原さんより、上山の水路は細くて水深も一定でなくなかなか難しいかもしれないというコメントもあった。

このプロペラが付いたモジュールを水路に流し、回転具合で水量を測定する。流量の多い場所には蓄電池を置き、水力発電で得た電気を蓄電する案も出た。

このプロペラが付いたモジュールを水路に流し、回転具合で水量を測定する。流量の多い場所には蓄電池を置き、水力発電で得た電気を蓄電する案も出た。

草取りについては外から訪れた人も楽しく草刈りに参加できるスマホアプリ「草Book」が発表された。草刈機にセンサーをつけ刈った量をデータ化し、ポイントがつく仕組み。あるレベルに達すると農作物をもらえる。これには審査員からもオーナー制度などを併用してお米以外の農産物にも応用できそうと好反応が得られた。

プレゼンテーションのようす。シカが網で捕らえられる様子をデモンストレーションしてみせた。

プレゼンテーションのようす。シカが網で捕らえられる様子をデモンストレーションしてみせた。

手前は審査員の地区長、藤原さん。奥が棚田団団長の猪野さん。

手前は審査員の地区長、藤原さん。奥が棚田団団長の猪野さん。

草刈りをテーマにしたもう一チームの提案も「草刈手帳」というアプリ。初心者でも効率よく安全に草刈りを行うために、ベテランや高齢者のノウハウをデータ化し、危ない場所や困難な場所を可視化した難易度マップを作成する。どこがどれくらいの時間をかけて草刈りされたかを見える化することで、初心者でも危険な域がわかり、今は把握できていない効率アップがはかれるというものだ。

こうして全8チームによる発表が終わると、いよいよ結果発表へ。まずは参加者の投票による「オーディエンス賞」に「草刈手帳」が決定!そして審査員による最優秀賞も同じ「草刈手帳」がダブル受賞となった。さらに今回特別に審査員特別賞が発表され「草Book」が受賞。草刈り対策が高評価を残す結果となった。

審査委員長の谷川さんは受賞理由を「実現性と総合的な面白さ。センサーの活用とニーズのバランスがよかった。草Bookとセットになるとさらにいいかもしれない」と述べた。
今回テーマとして挙げられたのはいずれも農業の現場では切実な課題だ。ITやモビリティの技術を使った対策はまだまだ検討の余地があり、大きな可能性を秘めている。

優勝したメンバーには、賞品として山田錦でつくったお酒「㐂(き)」と優秀賞としてはお米俵が提供された。

優勝したメンバーには、賞品として山田錦でつくったお酒「㐂(き)」と優秀賞としてはお米俵が提供された。

全員で集合写真。

全員で集合写真。

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