白子 愛也さん

初めて棚田を見たときの感動は、今でも忘れていません。

全員で棚田の再生を行いながら、ほかの時間や農閑期は思い思いの仕事をする。それが『上山集楽』メンバーの暮らし方。ある人は皮革製品の商品化に挑み、ある人は古民家を改修してカフェをオープンさせる。そして、この白子愛也(よしや)さんは、ブドウの栽培を目指している。
1976年、和歌山県生まれ。しかし間もなく母親の実家があった群馬県に引っ越し、群馬県で少年時代を過ごす。

以前も果物のハウスがあったという畑をブドウ畑に。前任者が埋めていたという骨組みを掘り出す。「これも使えないかな」

以前も果物のハウスがあったという畑をブドウ畑に。前任者が埋めていたという骨組みを掘り出す。「これも使えないかな」

「サラリーマン家庭だったんですが、中学時代に読んだ『夏子の酒』という漫画を読んだことが、農業に関心を持つきっかけになりました」
無農薬や減農薬の酒造好適米を使い、安全な酒を造る酒蔵の物語。通学途中の子どもたちが、ヘリによる農薬散布の被害に遭っているなどの話を知り、安全な農業を研究したい、との思いを強くする。高校卒業後は二年制の農業大学校に進学。

「とは言え、簡単に農業を始められるわけではないし、一度は会社員の経験も積んでおきたかったので、地元の会社に就職しました。飲料メーカーの生産ラインの仕事です。かなりの力仕事だったので、体力はつきましたね」
いつかは農業をやりたい、と思いながら、その会社に入社して10年以上が過ぎていた。このままではいけない、と思い、一念発起。滋賀県にある農業生産法人の募集を探し出し、ひとり、琵琶湖の畔へ向かう。

02

稲刈り、そしてハゼ干し。稲を天日干しするハゼ干しは、今ではあまり見ることのできなくなった貴重な乾燥法。

稲刈り、そしてハゼ干し。稲を天日干しするハゼ干しは、今ではあまり見ることのできなくなった貴重な乾燥法。

「彦根市にあるんですが、その広大な田んぼに感動しました。琵琶湖も海のように広いし。いわゆる大規模農業です。近所の農家が羨むような大きな機械が何台もあって、バルブを捻れば琵琶湖の水が取り放題で」
社員は10数人の法人。そこで念願だった米作りに取り組み、一方で人手の少ない果樹部門を手伝ううちに、果物作りの楽しさを知る。
「ブドウだけではなくて、イチジク、柿、ブルーベリー。あと梨も手伝いました」

その法人で働くようになって3年目、琵琶湖畔に大雪が降り、ブルーベリーのハウスがつぶれてしまう。ギリギリまで雪下ろしをしていたものの、これ以上は危ない、と諦めてハウスを離れたところで倒壊。白子さんはかろうじて難を逃れた。もはや売り物にはならない、と諦めた法人の代表が、ブルーベリーの引き取り手を募ったところ、4トントラックに乗って現れたのが『上山集楽』のカッチこと西口和雄さんと、梅ちゃんこと梅谷真慈さんだった。

竹藪を切り払い、耕作放棄地を再生する。竹を燃やすときの破裂音が、上山の谷間に鳴り響く。 「その時は、まだ上山に行くとは思っていなかったんですけどね」

竹藪を切り払い、耕作放棄地を再生する。竹を燃やすときの破裂音が、上山の谷間に鳴り響く。

「その時は、まだ上山に行くとは思っていなかったんですけどね」
やがて、諸事情により辞職。しばらく滋賀県内でトラックの運転手をしながらも、農業への思いを断つことができず、ふと、あのときに受け取った『上山集楽』の名刺を思い出す。
問い合わせると、いつでも来い、と。すぐに飛んで行き、『さいぼう庵』の二階に案内され、再生している途中の棚田を目の当たりにする。

「あの風景を見たときの衝撃は、初めて琵琶湖を見たとき以上のものでした。これができるんだったらぜひ僕も参加したい、と」
迷わずに上山に移住。地域おこし協力隊として来たわけではないので、当初の生活は苦しかった。夕方から夜にかけて、最寄りの街である福本のコンビニでアルバイト。翌朝起きれば全員での草刈りなどの作業が待っている。それでもやりたくて来ているので、全然キツいとは思わなかった。

白子さんが初めて見たのも薬師堂方面の棚田。撮影時は夏で、春に野焼きをした棚田は草で覆われていた。

白子さんが初めて見たのも薬師堂方面の棚田。撮影時は夏で、春に野焼きをした棚田は草で覆われていた。

「上山に来て2年目にブドウの栽培を始めました。4~5反の畑があればどうにか生計が立てられますが、ちょうどそのくらいの広さです。とは言っても、まだ棚も立てていないし、実を結ぶまで5年はかかります。これからが大変です」
田植えから半年で収穫できる米とは違い、果樹は息の長い仕事なのだ。5年もの間、手塩にかけて育てた樹が、はたしてどのように結実するのか。
「たしかに賭けですよね。でもこれからは、日に日に畑の景色が変わってくると思いますよ。それがとても楽しみなんです」

息の長い仕事とは言え、もう少し畑を増やして、ワイン造りにも挑戦したいという。これから畑を増やすとなると、さらにまた5年。その頃、上山の棚田はどこまで再生されているのだろう?
「初めて上山に来て、『さいぼう庵』の二階から棚田を見たときの感動は、今でもまったく変わりません。自宅の近くに耕作放棄されたままの田んぼがいくつかあるんですが、いつかここもきれいにしたいな、と思いながら畑に通っています。上山の田んぼがきれいになった風景を想像しながら、今からワクワクしています」
その風景の中で初めてできるワインは、いったいどんな味がするのだろう。

上山での標準装備、軽トラに草刈り機を積んで、行ってきます。

上山での標準装備、軽トラに草刈り機を積んで、行ってきます。

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