松原 徹郎・久美さん

長年受け継がれてきた文化と技術を、
次の世代につなぎたい

上山集楽の“薬草博士”といえばこの人をおいて他にいない。松原徹郎さん。20年以上、環境調査や森林管理を行ってきた植物に詳しい専門家だ。2013年に奥さんの久美さんと子ども3人を連れて、家族5人上山に移り住んだ。
一緒に集落を歩いていると、ちょっとした土手にも薬草や食べられる雑草を目ざとく見つけ、草の特徴や薬効を教えてくれる。
「上山だけでも、体にいい草や食べられる野草がたくさんあります。それを使わないのは勿体ない」。その言葉どおり松原家の食卓には、家の周りで採れた野草を使った料理が並ぶ。じつは松原夫妻、こうした身近な「草」をもっと日常生活に役立てられないかと事業の開発に取り組んでいる。

徹郎さん。今彼らが暮らす家からは、八伏地区の棚田が広々と見渡せる。

徹郎さん。今彼らが暮らす家からは、八伏地区の棚田が広々と見渡せる。

 

棚田だった場所を畑にして、ベニバナやクワなどを育てている。

棚田だった場所を畑にして、ベニバナやクワなどを育てている。

徹郎さんの以前の職場は自然環境調査の会社で、公共工事などさまざまな現場で自然環境の調査や計画づくりを行ってきた。環境保護のためには大切な仕事とわかっていながらも、提案書が読まれるのは関係者数人の間でのみ。自分の仕事がどれほど世の役に立っているのかとジレンマも感じていた。
「結局、なんて言うんですかね、いくら工事のために計画を立てて実行されても、一過性にすぎないんです。自然、特に里山はその後も継続して手入れをしたり、人が利用し続けない限りは荒れる一方。里山を暮らしの中で利用しない限り本当の意味で環境は保てないんですね」

ストレスを感じながらも、仕事は多忙で生活は不規則になり、ついに身体のバランスを崩してしまう。
「長いこと治らなくて何とかせなと思っていた頃に、新聞で上山のことを知ったんです。見学に来てみたら、若い人らと年輩の地元のおじいらが派手に野焼きをしていて。ぶっとんでるし、面白い場所やなと。本気で里山と棚田を復活させられる場所かもしれないと思ったんです」
ひと目で気に入り、移住を決めた。

「自然を保護することじゃなくて、利用することをしたかった」と徹郎さん。それには上山がうってつけだったという。

「自然を保護することじゃなくて、利用することをしたかった」と徹郎さん。それには上山がうってつけだったという。

 

奥さんの久美さん。結婚前は製薬会社に勤める薬剤師だった。上山へ来てからは、野草料理が得意に。

奥さんの久美さん。結婚前は製薬会社に勤める薬剤師だった。上山へ来てからは、野草料理が得意に。

それにしても、大阪の都会暮らしからの移住。家族は反対ではなかったのだろうか? 奥さんの久美さんは当時を振り返ってこう話す。
「私の田舎は島根の山奥なので大丈夫だったんですが、子どもたちにとっては初めての経験。来たばかりの頃は、家もまだ台所の床はコンクリートの土間のままで、雨漏りはするし、トイレもボットンで(笑)。娘がトイレ行って嘔吐いたりして。でもそれを一度経験しているから、その後主人が台所に床を張ってくれたり、トイレも簡易水洗になると年々住みやすくなって、今はあ〜快適やなぁって感じられます」

当時すでに上山へ移住していた梅谷さん水柿さんの存在も大きかったのだそう。
「子どもらには、どんな環境にあっても本当にしたいことがあったら、自分で道を選べるような大人になってほしかった。大地や梅を見て、ああ、こういう若者を子供らが手本にしてくれたらいいなと思いました」

中学校2年生のふうかさん(写真手前左)と、小学6年生のりんさん(手前左)、高校1年生の颯汰くん(後列右端・2017年4月時点)。上山へ来てからずいぶん身体も丈夫になったのだそう。(撮影:髙田昭雄)

中学校2年生のふうかさん(写真手前左)と、小学6年生のりんさん(手前左)、高校1年生の颯汰くん(後列右端・2017年4月時点)。上山へ来てからずいぶん身体も丈夫になったのだそう。(撮影:髙田昭雄)

久美さんのお手製野草オムレツ。野草を摂ると身体にもいい効果があるのだとか。

久美さんのお手製野草オムレツ。野草を摂ると身体にもいい効果があるのだとか。

いま松原夫妻は、昔の農村では当り前に行われていた薬草利用を、復活させられたらと考えている。

「今、例えば人口150人くらいの村でかかる医療費を試算すると、一世帯あたりの平均額から考えて、年に1000万円以上(自己負担、保険分込みで)とかなりの額です。地域のお年寄りはちょっとしたことですぐ病院にかかるし、薬に頼りたがる。でももし日常的に薬草を摂ることで、免疫力を上げられたり、体を強くすることができたら、医療にかかるお金はずいぶん軽減できるはずです」(徹郎)

薬剤師の資格をもつ久美さんと、薬草博士の徹郎さんは最強コンビ。まずは自分たちで実践しようと周囲の山で採集してきた草や、クワ、ベニバナを栽培してお茶にし、久美さんの勤める薬局などでも販売。薬草のことを学べるツアーなども頻繁に行っている。

都会から多くの参加者が訪れた、薬草ツアーの様子。徹郎さんの前は、栽培中のアイの畑。

都会から多くの参加者が訪れた、薬草ツアーの様子。徹郎さんの前は、栽培中のアイの畑。

 

久美さんの指導でアロマウォーターづくりも。

久美さんの指導でアロマウォーターづくりも。

「例えば、400種類くらいの薬草を見分けて薬にしたり加工する方法を知っているおばあちゃんの知識ってすごい価値だと思うんです。すぐにお金にならなくても、誰かが受け継がないと、と思う。棚田も同じで、そこには千年以上の年月をかけて蓄積された、人の営みや技術がぎっしり詰まっています。そうした技術や文化はきっとこの先、また人が必要とする時がくるものだと思っています」

棚田の再生も、薬草も、次の世代につないでいきたい。だからお金になることもならないことも両立させるのが大事と徹郎さんは話した。彼らはこの場所に移り住んだだけでなく、長い年月をかけて受け継がれてきた文化と技術の、継承者になろうとしている。

目下、家を増築しようと、基礎から一人でつくり始めている。

目下、家を増築しようと、基礎から一人でつくり始めている。

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