小磯 香さん

都会にいても将来像が見えないなら、面白いほうがいい

「正直に言えば、ここではっきりやりたいことが決まっていたわけじゃないんです」。小磯かおりさんはそう大らかに笑った。東京の企業に勤め、人事部のマネージャーとして働いていたが、2016年上山へ移住。40歳独身女子の決断、とはいっても本人は至って軽やかだ。
「田舎が好きでいつかは田舎で暮らしたいなと思っていました。会社員を続けていれば暮らしは安定していたし、定年まで勤めることもできたと思います。でもこれ以上出世したいとは思わなかったし、人事のプロとして独立したいという夢もなかったんです」
都会にいても田舎へ行っても同じように未来が見えないなら、面白い方がいい。今は上山で生業をつくれたらと起業の道を探っている。

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上山との出会いは、4年前。同じ会社の先輩だった井上寿美さんが棚田団の一員で、あるイベントに誘ってくれたのがきっかけだった。数年後、その井上さんが上山へ移住することに。小磯さんにとっても移住がぐっと身近になる。
「その頃すでに上山は田舎でも若い人が活躍できる場として有名になっていて、楽しそうでいいなと思っていました。でも大地くんや梅ちゃんみたいな若いスター選手がたくさんいて、私など無理だろうなとはなからあきらめていて。でも寿美さんに、今はとにかく人手がほしくて新たに10人の地域おこし協力隊を募集しようとしていることなどを聞いて、それなら可能性があるかもしれないと考えるようになったんです」

さっそく次の連休を利用して上山を訪れ、田んぼで作業をしたり会議に出るなどメンバーとともに過ごしてみた。
「この時、みんなといてまったく違和感を感じなかったんです」。ここでなら自然体で田舎暮らしを実践しながら、次の人生設計もできる。そう思って移住を決めた。そのあとはトントン拍子。先行して移っていた井上さんと共同生活をすることも決まり、2016年秋から地域おこし協力隊として採用され上山での生活が始まった。

家の裏の小さな畑では、白菜などの野菜も育てている。近所の農家の方が親切で手を入れてくれることも。

家の裏の小さな畑では、白菜などの野菜も育てている。近所の農家の方が親切で手を入れてくれることも。

 

二人が暮らす家のリビング。床張りや壁塗りなどすべて自分たちで改修した。すっかり女性らしい内装に。

二人が暮らす家のリビング。床張りや壁塗りなどすべて自分たちで改修した。すっかり女性らしい内装に。

 

それでも地域おこし協力隊の任期は2年半と決まっている。先の見通しがないままキャリアを断つことに、不安はなかったのだろうか。
「自分で何かを始めるとしても、まずは住んでみないと地元で必要とされていることもわからないと思ったんです。もちろん不安がなかったわけではありませんが、面白そうという気持が勝ってしまいました」。
実際ここに住み始めてから、今までは見えなかったさまざまなことに目が向くようになった。
都会では考えられないほど地域内での活動がさかんで、住民同士の助け合いが必要な田舎暮らしでは、「まずは参加してみる」ことが何より大切。その中で、積み上げてきた経験値から将来の生業を見つけたい。近隣の地域には37歳で起業したというマッサージ店の女性オーナーもいたり、高齢者向けの「シニアヨガ」がニーズあることなども知った。「これというものが見つかれば形にできる」と思えるのも、20年のキャリアのなかで営業も販売も経験した仕事の基礎力があってこそだ。

フットワークは軽いがいざというときには肝がすわっている印象の小磯さん。

フットワークは軽いがいざというときには肝がすわっている印象の小磯さん。

その小磯さんが、今年から新たな試みとして始めているのが、移動スーパー。吉備中央町で移動販売事業を手がける「いどうスーパーロンドン」で車が1台空いていると聞いて、上山集楽で展開してみたいと手を挙げた。

「自分から動かなければ、集落のすべての人たちと知り合う機会は意外と少ないんです。その点、移動スーパーは一軒一軒まわるので、集落の皆さんのことを知る上でも、自分のことを知ってもらうためにもすごくいい手段だと思いました」。

当面は月に2回。第2・4木曜日に試験的に始めている。朝オーナーの元へ車を取りに行き、仕入れをした車で一軒一軒をまわる。

当面は月に2回。第2・4木曜日に試験的に始めている。朝オーナーの元へ車を取りに行き、仕入れをした車で一軒一軒をまわる。

初回は、地元の女性悦子さんが一緒にまわってくれたお陰で皆に知ってもらうことができた。「まずはお付き合いで一つ」と買ってくれる人も。

初回は、地元の女性悦子さんが一緒にまわってくれたお陰で皆に知ってもらうことができた。「まずはお付き合いで一つ」と買ってくれる人も。

「上山では独居のお年寄りでも、近くにお子さんが住んでいらして週に1回は買い物してくれるなど困らない生活をされています。ここで必要なのはもしかしたら移動販売という形態ではなく地元の商店という形かもしれない。将来的には雲海温泉内に出店することなども含めて、“地域にとっていいサービス”を模索しています」

雲海温泉のような地域のシンボルに店を構えることができれば、お年寄りや子育て中のお母さんなど世代を超えた住民がコミュニケーションを取れる場にもなり得るし、観光客にも利用してもらえる。そこを拠点として、必要な人にはコムスなどの小型モビリティを使って移動販売を行ってもいい。

「それも始めから頭で考えられることではなくて、住んでみて周りの状況を知ってわかることばかり。集落内の状況も刻々と変わるので。やっぱり、まずは来て動いてみてよかったと思っています」。

プレイヤーが少ない地方だからこそ可能性がある。どこかで聞いたそんな言葉が間違いではなかったことを、今実感している。

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