棚田の仕組み

古いものの中に最先端がある。
棚田の仕組み。

上山の棚田を潤す大芦池。外周は約4km。築いた人物は「大足比古大神」「大足比女大神」として伝えられ、上山神社に祀られている。雨水を貯める人工池で、堤防も住民の手によって築かれた。

上山の棚田を潤す大芦池。外周は約4km。築いた人物は「大足比古大神」「大足比女大神」として伝えられ、上山神社に祀られている。雨水を貯める人工池で、堤防も住民の手によって築かれた。

水田には稲を潤す水が欠かせない。となると、近くに川も湧き水もなく、雨水を利用する棚田の上には潅漑用の池が作られる。ここ上山では標高433mに位置する人工の大芦池がそれに当たり、上山神社の言い伝えによると、天平年間(西暦729〜749年)よりも古くに築かれたとのこと。

人工の池と水路と水田、その多くが千年以上も昔に作られた。

ここから集落の真ん中を北へ走る尾根を境に、東西それぞれの棚田に向け、井出と呼ばれる水路が網の目のように掘られている。その水路は、最も遠い八伏地区まで標高差は約200m、距離は直線にして約3㎞。
とは言いながら、水路は斜面を下る一方ではなく、平坦な箇所も、ときにはわずかな下りを使いながら尾根を越える箇所もある。だからこそ複雑なコースをたどり、直線距離よりもはるかに長くなるのだ。
大芦池付近の水路は奈良時代に掘られた。その後も延伸され、最も低地の八伏地区の水路は江戸時代に掘られたとのこと。それにしても、このようなコース取りの技術が、千年以上も昔からあったことに驚いてしまう。

大芦池に作られた取水口。意外に小さいけれど、ここからすべての棚田に水が送られる。なお、階段沿いにいくつもの取水口が作られており、貯水量によって取水口を変える仕組み。

大芦池に作られた取水口。意外に小さいけれど、ここからすべての棚田に水が送られる。なお、階段沿いにいくつもの取水口が作られており、貯水量によって取水口を変える仕組み。

水路の分岐点。ここから各集落へ均等に水を供給する。板で水路を塞ぎ、流す方向を変えるという、意外にシンプルなシステムなのだ。かつてはここに各集落の水番が集まり、不公平が無いように目を光らせていたとのこと。

水路の分岐点。ここから各集落へ均等に水を供給する。板で水路を塞ぎ、流す方向を変えるという、意外にシンプルなシステムなのだ。かつてはここに各集落の水番が集まり、不公平が無いように目を光らせていたとのこと。

上山の水路は露天掘りのまま使われている箇所も多く、となれば当然、落ち葉が降り積もり、大雨が降れば土砂が水路を塞ぐことも珍しくない。そのために、水路の保全は棚田を利用するすべての住民にとって大切な仕事。またこの仕事は、棚田を中心としたコミュニティを維持する上でも重要な意味を持っている。

住民総出で水路を守る。それが棚田の暮らしの基本。

大芦池の水が、最も遠い地区に届くまでの時間は約2時間。取水口は夏の間、水番によって毎日開閉される。時間内に水が届かない場合には、付近の住民が水路沿いを歩き、詰まった箇所を探し出さなくてはならない。これは台風の後はもちろん、梅雨どきの大雨や強風の翌日にもたびたび起こること。水路に流れ込んだ土砂や倒木を取り除き、水の流れを確保する。また、日頃から自宅近くの水路を掃除しておくことも、棚田の住民の大切な日課となっている。

毎年4月29日には、住民総出による「掛け井出掃除」。溜まった落ち葉を外へ掻き出す。長さ2mほどの自分の持ち場を清掃したら、順繰りに上流側に移動して行くという方式。3時間ほどで終了する。運動量は、ちょっとハードなトレッキング。

毎年4月29日には、住民総出による「掛け井出掃除」。溜まった落ち葉を外へ掻き出す。長さ2mほどの自分の持ち場を清掃したら、順繰りに上流側に移動して行くという方式。3時間ほどで終了する。運動量は、ちょっとハードなトレッキング。

水路保持の一年は、毎年4月29日、大芦池に雨水を引き込む「掛け井出」と呼ばれる水路の掃除から始まる。とは言え棚田の再生活動が始まるまでは、このキツい掃除のほとんどを地元のお年寄りが行っていたという。
「あの頃は、掛け井出掃除にこんなに大勢の人が集まる日が来るなんて、思ってもおらんかった」
と、うれしそうに作業のようすを眺める小林純男さんは、今年で何と90歳。それでも元気に先頭を歩きながら、水路の落ち葉を掻き出している。

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水路掃除の先頭を歩く小林純男さん。棚田で鍛えた足腰、カッコいいぜ!

水路掃除の先頭を歩く小林純男さん。棚田で鍛えた足腰、カッコいいぜ!

続いて5月に入ると田植えに備えた水路掃除が待っている。これは麓の集落へ続く、何本もの水路の落ち葉や土砂を掻き出すというハードな仕事。かつて大阪から水路掃除の手伝いにやって来た元ハンマー投げの選手が、あまりの大変さに驚き、応援を頼んだことが『英田上山棚田団』結成のきっかけになったほど。しかし、その時も地元のお年寄りたちは、楽しそうに、この昔ながらの水路掃除を行っていたらしい。

水路掃除を前にした八伏地区の水路。露天掘りの狭い水路を、ご覧の通り落ち葉が落ち葉が埋めている。

水路掃除を前にした八伏地区の水路。露天掘りの狭い水路を、ご覧の通り落ち葉が埋めている。

「こうして見ると、棚田は食糧製造の大きな循環型プラントでしょう。ものすごい技術ですよ。古いものの中にこそ最先端がある。これを今、後の人たちに伝えておかないと、二度と取り戻せなくなるんです」
と、棚田の集落では大役の「水番」を務める西口和雄さん。彼は2010年、棚田を再生させるために大阪から移り住んだ、いわば外の人。しかし熱意があれば、誰にでも大役を任せる大らかさが上山にはあるようだ。
「70年も上山に住んでおるけど、池の水が涸れたことはないよ」
と、小林純男さん。雨の少ない岡山県で、千年以上も守られてきた棚田。水と水路の管理も、こうして住民総出で引き継がれて行くのだ。

北の麓から見た上山の全景。真ん中の山の向こうに大芦池があり、この広大な谷を潤している。なお、麓の集落は川の水やわき水も利用するけれど、水路掃除のときには全員が顔を揃える。

北の麓から見た上山の全景。真ん中の山の向こうに大芦池があり、この広大な谷を潤している。なお、麓の集落は川の水やわき水も利用するけれど、水路掃除のときには全員が顔を揃える。

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