薬草

薬草利用で地域医療を変える、
これぞ薬食同源。

薬草

ドクダミ、ヨモギ、ゲンノショウコ。四方を山に囲まれた上山では、長年人の暮らしと山の関係が密接で、野山の草花を薬や食用としてきた歴史がある。センブリやドクダミはお茶にして飲み、お腹を壊したらゲンノショウコ、怪我をしたらヨモギの汁を当てるなど、当時の人びとは草木の利用法を広く知っていた。現代医療の普及で薬草の活用はほとんど途絶えてしまったが、今、再び野草の価値に目を向け、薬効利用を復活させようとしている人がいる。3年前に上山へ移住してきた、テツロウさんこと松原徹郎さんだ。

テツロウさんって、何者?

テツロウさんは、上山へ来る前、約15年の間、環境保全のコンサルタント企業で自然環境調査員として働き、日本中の山を歩き植物調査を行ってきた植物の専門家。上山を初めて訪れた際、若い移住者や地元のお年寄りたちが一緒になって大規模な野焼きをやってのけるのを見て、その迫力と心意気に魅せられ、「こんな地域はほかにない」と家族を説得して奥さんと子ども3人とともに上山へ移住してきたのだという。

松原徹郎さん。植物の話をし出すと止まらない。山を知り尽くした地元のお年寄りたちが「この人は植物のこたぁ、よ〜お知っとる」と信頼を寄せる植物通。

松原徹郎さん。植物の話をし出すと止まらない。山を知り尽くした地元のお年寄りたちが「この人は植物のこたぁ、よ〜お知っとる」と信頼を寄せる植物通。

上山へ来てからはさっそく山を歩き周り、植生を調査。約620種の自生植物のうち薬効があるといわれるものが120種あることがわかった。目下、奥さんの久美さんとともにこの“使える”植物を採集し、ベニバナやクワを栽培してお茶にし、販売する事業を始めている。さらに薬草についての知識を伝えるべく薬草摘みのツアーも行っているというので、ならば、とお願いしてさっそく薬草ツアーを敢行してもらった。

テツロウさんのクワ畑。昔養蚕のために盛んだったクワの栽培を再開している。棚田だった場所にはベニバナを植え、夏になり花が咲くとオレンジ一色に染まる。

テツロウさんのクワ畑。昔養蚕のために盛んだったクワの栽培を再開している。棚田だった場所にはベニバナを植え、夏になり花が咲くとオレンジ一色に染まる。

いざ、薬草つみへ

初めに向かったのは、林縁(りんえん)と呼ばれる、ヤブと草地の境界にあたる土手。開口一番、「萌える法面(のりめん)やな〜〜」と満面笑みのテツロウさん。
「植物はこうした林縁に種類としては一番多く出るんです。林の中は土が肥えているけど、光が入らない。ちゃんと草刈りしてあるところは光の量が多い上に、林からミネラル豊富な土が流れてくるので、ぱっと見ただけでも食えるもんがたくさんあります」

法面とは、斜面や土手のこと。春になると田んぼのあぜにはタンポポやレンゲ、ハコベやオオバコといった花が咲き乱れる。草刈りを怠ると光が入らなくなり、あっという間に植物の種類が少なくなってしまうのだそう。

法面とは、斜面や土手のこと。春になると田んぼのあぜにはタンポポやレンゲ、ハコベやオオバコといった花が咲き乱れる。草刈りを怠ると光が入らなくなり、あっという間に植物の種類が少なくなってしまうのだそう。

テツロウさんが野山で着目するのは、基本的に「薬草か、食えるもん」。
「これは春の七草でも有名なハコベです。指ですっとちぎれるくらいの柔らかさなら、繊維が気にならずに食べられます。ハコベで塩もつくれるし、消炎作用もあるので歯茎のハレ、歯肉炎、歯槽膿漏にいいと言われます」。

まず見つけたのは、白くて可憐な花をつけるハコベ。

まず見つけたのは、白くて可憐な花をつけるハコベ。

すぐそばに咲いていた紫の花は、カキドオシ。葉をちぎるとハーブのようないい香りがして、糖尿病の治療薬としても使われる。

カキドオシ。子どもの疳を取り除くというので、カントリソウ(疳取草)の名もある。

カキドオシ。子どもの疳を取り除くというので、カントリソウ(疳取草)の名もある。

その他にもセンブリやヒキオコシなど苦みのある草は健胃効果があり、フキは咳止め、ヨモギには収斂止血作用のある成分が含まれ止血剤になると言われ…などなどなど。
テツロウさんの言う“薬効”は、むろん人それぞれ体質の違いもあるし「万人に効く」とは言い切れない。それでも長い歴史の中で、膨大な数の人が実践と失敗を繰り返してきた実験結果でもあるという。

黄色の可愛いらしい花「クサノオウ」の茎をぽきっと折ると、インクのような濃い黄色の液がにじみ出た。「これ、有毒です」。黄色い汁は有毒なものが多いので危険信号。

黄色の可愛いらしい花「クサノオウ」の茎をぽきっと折ると、インクのような濃い黄色の液がにじみ出た。「これ、有毒です」。黄色い汁は有毒なものが多いので危険信号。

薬効に関わらず、テツロウさんは植物のことを驚くほど知っている。油断すると話が長くなってしまうのだけれど、この内容がじつに面白い。昔お坊さんが葉の裏に文字を書いて葉書代わりに使っていたタラヨウって葉があることや(「葉に書く」でハガキ!)、ヤブカンゾウの蕾は金針菜(キンシンサイ)といって中国の高級食材。ビタミン類と鉄分が豊富なので夏場にもってこいだとか、スイバは酸っぱくておいしく、フランスの野菜ルバーブにそっくりなのでルバーブを買う必要なんかないって持論が展開されたりもする。

どんな草もまずは自ら食べてみる。時にお腹を壊すこともあるが、へっちゃら。

どんな草もまずは自ら食べてみる。時にお腹を壊すこともあるが、へっちゃら。

テツロウさんの植物談義を聞くうちに、その辺の草むらが宝の山に見えてくる。草はそこに生えているだけなら、ただの雑草。利用の仕方を知ってこそ人の暮らしに役に立つ。昔と変わらず有用な植物がたくさんあるのに、今や「雑草」としてしか認識されていないことを、テツロウさんは「心底、勿体ない」と思っているのだ。

野生植物を、地域医療に役立てたい

「昔の人たちはみんなそうして、草を食用や薬として使っていたんですよね」。
今も、薬草をお茶にして飲むなど、草の利用は一部のお年寄りに習慣として残っている。

御歳90歳の片岡澄子さんは、毎年春になるとドクダミを煎じて薬代わりのお茶にする。焼酎に浸けてつくった化粧水も販売している。

御歳90歳の片岡澄子さんは、毎年春になるとドクダミを煎じて薬代わりのお茶にする。焼酎に浸けてつくった化粧水も販売している。

テツロウさんが目指す暮らしは、「スローライフ」や「田舎ぐらし」といった言葉では語れない、もっと革新的なものだ。薬にするほどの量の薬草を摘むのは大変だし、洗って乾かすのも一大仕事。敢えてそれをするのは、薬草で“地域医療のあり方”を変えたいと思っているから。その背景には、田舎の厳しい現実がある。

「上山から一番近くのお医者さんまで車で15分、総合病院へは30分、専門治療になれば1時間以上かかります。地元のお年寄りは、毎回その距離を通って大量に処方薬をもらってきているけど、これから先を考えると移動手段の確保も大変だし、公費でまかなう医療費もばかにならない。薬草がどんな病気にも絶対効くとは言えませんが、未病状態を保ったり、症状が押さえられるケースはたくさんあると思うんです」。

薬草

今の日本の法律では、自分で採った薬草を“薬”として扱うのは難しい。だが長年処方薬を飲み続けてきた男性が、テツロウさんのクワ茶を飲み始めて症状が改善し、かかりつけの医者に「そのお茶以外に理由が考えられない」と言われたという話もある。
今、テツロウさんの夢は、自生植物のみで漢方薬局を開設すること。地域の人たちに薬草を販売して、少しでも「薬品」の使用を抑えられる生活を実現することだ。しかも、もっとも身近な最強の味方、奥さんの久美さんが薬剤師(!)とくれば実現しそうな気がしてくる。

植物好きのマサルさんは、テツロウさんの顔を見るとあれこれ質問する。

植物好きのマサルさんは、テツロウさんの顔を見るとあれこれ質問する。

上山は、西日本の典型的な里山。ここで紹介した植物も決して珍しいものではないし、どこにでもあるポピュラーなものばかり。ほんの少し植物に目を向けるだけで世界はまったく違って見えてくる。まずは、知ることから。あなたも上山でテツロウさんに植物を学び、野の草花との蜜月関係を築いてみませんか?

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